前略 28歳の君へ。

急に寒くなってきました。雨が続き外仕事もできず、かといって寒さに体が慣れず、動くのも億劫になってしまいます。こんな時こそ、ゆっくり読書、なんて思いながらも、いろいろなことを考えてしまいます。

そういば、初めて「いすみ」という町に来たのもこの季節。暑い夏が終わり少し落ち着き、寒い冬を迎える準備をし、年末に向けて少しずついろんなことが動きはじめていた時。

当時の私は表参道で働く会社員で忙しくもやりがいある仕事をしていました。繁忙期になると仕事のストレスを感じることもあったけれど、どちらかというと不自由なく、東京暮らしを満喫しているOLさん。社会人になって5年が過ぎようとしていました。

そんな日々ではあったものの、休みの日になると都会を逃げるように、のんびりできる場所へ向かっていました。自然を求めて散歩したり、時に地方へ旅行にいったり。週末休んで、また月曜日から5日間を走り切る。ある日はたと、平日と週末のリズムを逆転できないものかと考えたのです。日常から逃げるようにどこか遠くに行くけれど、毎日が非日常になってもいいじゃない。
そこから、「いなかで暮らす」をどうしたら実現できるのか考え始めました。

当時は、まだまだ地方に目が向けられていない時代。社内の人に自分の想いを話してみても「何言ってるの?今のままで十分じゃない」というような反応ばかり。自分が考えていることって世間からずれてしまていることなのかな…と、半ば諦めようと思っていたとき、「そういば、この人ならばわかってもらえるかも」と、当時隣の席だった同僚をランチに誘いました。都会を離れたいと思っていること、地方で何かできないか考えていきたいこと、今自分がぼんやりとでも考えていることを話しました。すると「いいですね。僕の友人で地方に移住して活動している人がいるので紹介しますよ」と、応えてくれたのです。うれしかった。自分の想いに共感してくれる人が身近にいたことがうれしかった。

この出来事をきっかけに、リアルに地方に移住するためにはどうしたらいいか、「非日常を味わいにいく場所」ではなくて「日常を過ごすための場所」をどこにするか考えはじめました。その中で、東京からもほど近く、観光地としてではなくて、移住先として積極的に受け入れをしているいすみ市のことを知り、移住相談窓口に行きました。2010年10月のことでした。
秋晴れの気持ちのいい天気の日。はじめましての人に会うってとても勇気のいることで緊張したけれど、会って話をしてみたらなんてことはない。私がこれからしようとしていることを応援してくれる人ばかりでした。もちろん「まだ若いんだし、よくよく考えてね」とは言われたけれど。ずっと「都会>いなか」、都会の方がいいという価値観を持っていたけれど、「いなかはいなかのおもしろさがあるよ。むしろクリエイティブになれる」という人がいたのも驚きだった。人に会って話をしたことで、想像だけしていたことがぐっとリアルになったのです。
それから12月には会社に辞表を出して、2月末には退職、移住。たった数ヶ月の間に劇的に環境が変わりました。

「不安はなかったんですか?」とよく聞かれます。

もちろん、ありました。 
会社に「辞めます」というのを何度ためらったか。「移住したいと思っています」とメールを送るのになんど書き直したことか。
住んでいた家を引き払うために不動産屋さんに電話をかけた時には、手が震えていました。
それでも、ここでためらったら、きっと一生変われない。最後は「えいや」と、勇気を振り絞った気がします。

年を重ねるごとに、新しいことに挑戦することが億劫になっていきますよね。
変わっていくことに、前向きになれないことも多くなります。

きっと、それは、大人になっていろんなことを知ってしまったからなのだと思います。
世の中が便利になって簡単にたくさんの情報を手に入れられるようになって、
いつしか、私たちはできない理由を探すようになってしまったのかもしれません。

自分に何ができるかわからないまま移住をし、暮らしてみて一つわかったことがありました。

自分探しの果てに、結局「自分」は見つからないということ。
自分は何ができるのか、自分に何があっているのか、悩んでもその先に、答えが待っている訳ではないのです。
それよりも、自分はこれで生きていく、と覚悟を決めることの方が大事なことのような気がします。

28歳だったころの自分からは、想像もできなかった今。
何かに焦り、もがき、時に苦しみ、理由もなく「今とは違う自分になりたい」とばかり思っていた。

もっと自由に暮らし、働きたい。
夢見ていたことは、時代の流れもあって、少しずつ現実になりつつあるのかもしれません。

変わるきっかけはどこにあるかわからないけれど、ちょっとの勇気をもって、一歩を踏み出したら、
昨日とは違う今がやってくるような気がします。

外はすっかり冬のようですが、温かくなる春の写真を載せてみました。
外はすっかり冬のようですが、心が少しでもあたたかくなるように春の写真を載せてみました。